【スズキ GSX-8R 試乗】フラッグシップよりも重要なもの…鈴木大五郎 スズキ『GSX-8R』は2023年のデビュー以来、これまで何度もテストしているマシン。アドベンチャーモデル『Vストローム800』および「DE」と共通プラットフォームを用いたロードスポーツモデル、GSX-8シリーズのフェアリング装着バージョンだが、スタイリングからイメージさせるよりもずっとフレンドリーなキャラクターを持っているのが特徴だ。 スズキスーパースポーツモデルの代名詞、「GSX-R」を彷彿させるスポーティなデザインながら、跨ってみればさほど前傾は強くなく、日常での気負いない走りを生み出している。ほとんどポジティブな印象しか持つことのなかったマシンであるが、今回の試乗は生憎の天候。雨かぁ…と気分が落ち込みそうになりながらテストをスタートする。 エンジンを始動。セルを1プッシュするだけでエンジンが始動するスズキイージースタートシステムが働く。また、ローRPMアシストにより発進時には回転数の落ち込みを抑制。エンストする心配も少ないため、緊張感とは無縁である。マシンを発進させて、その世界観を味わう。 なるほどなぁ。主張し過ぎず、それでいて没個性になることもないエンジンの気持ち良さをあらためて味わう。雨音にマッチする控えめながら単調になりにくい心地よい鼓動感。ツインエンジンはトラクションがつかみやすいとか、グリップ性能が高いなどと評されることが多いけれど、それは排気量だとかそのレイアウト等によっても異なるもので、一概には言えないものである。 しかし、この並列ツインエンジンはその定説がピタリとはまる。トルクの湧き上がり方が秀逸で、気持ち良くリアタイヤが路面を噛み込んでくれるような安心感に包まれる。雨でグリップ力は明らかに低下しているはずなのにそれを感じさせず、豊かな低中速トルクを活かしてパワフルな走りを楽しめる。 どこかの記事で、日常の足としてそれが退屈になりがちな通勤や通学であっても、そこにちょっとした潤いを感じさせるといった趣旨の文章を書いた記憶があるが、雨というあまり喜ばしくない状況下においても、同様の感想を持ったのである。 非常に使い勝手の良いオールラウンダー的キャラクターから、エンジンパフォーマンスはそれなりかと想像される方も多いかもしれないが、じつはこれがなかなかに速い。ワイドオー